From:昌子 幹(しょうじ・みき)
「あのぉ、、、このお金、
本当に振り込んで大丈夫ですか?」
女性銀行員が
怪訝な顔をしながら
私に尋ねた。
その日、私は
振込手続きをするために
ある銀行の窓口にいた。
どうやら、彼女は、
私が振り込め詐欺に
あっているんじゃないかと
心配しているようだ。
それはそうだろう。
何しろ、その時、私は
150万円ものお金を一気に
振り込もうとしていたのだ。
しかも、振込先は
「ダイレクト出版」
という謎の会社。
あやしい、
あやしすぎる。
はたから見れば、誰だって
そう思うに違いない。
私が逆の立場でも
止めに入っただろう。
でも、私はきっぱり答えた。
「はい・・・大丈夫です・・・たぶん・・・」
そして彼女は、
哀れむような目を一瞬私に向けた後、
首をひねりながら手続きに入った。
150万円は私にとっても
決して小さな金額ではなかった。
それどころか、
身を切るような金額だった。
何しろ、私はその頃
以前の会社の仲間たちと
立ち上げたばかりの
小さな会社で働いていた。
給料はそれまでの半分に減った。
ボーナスなんて夢のまた夢。
昼食代を浮かそうと、
毎朝自分でおにぎりを握って
会社に持って行っていたくらいだ。
その150万円にしても
たまたま生命保険の満期が来て、
本来であれば継続するところを
解約して用立てたお金だ。
文字通り、私の生命を
かけたお金だったのだ。
いったい、あんたは何に
そんな大金を支払ったかって?
よくぞ聞いてくれた。
それは、、、
「レビュー」だ。
そう、自分が書いた
セールスレターを
添削してもらうためだ。
別の言い方をするなら、
ダイレクト出版の小川さんに
ただひたすら
ダメ出しされるためだ。
それも、容赦なく、だ。
しかも、人前で、だ。
40近くのおっさんが人前で
年下の人間にこき下ろされる姿など
赤っ恥以外の何ものでもない。
だが、私はその体験を
お金を出して買った。
150万円を出して買った。
断っておくが、
私はマゾではない。
いや、多少はそうかも。
いや、でも正常範囲内だ。
では、なぜ?
わからない。
石橋を叩いて壊す私が
なぜ、そんな大胆不敵な
行動を取ったのか?
自分でもわからなかった。
ただ、ひとつだけ
確かなことがある。
それは、ダイレクト出版の
罠に落ちたということだ。
「マーケティング」という罠に。
少し詳しく説明しよう。
それは、振込事件(?)を
遡ること半年前。
私は、ダイレクト出版の
ある募集に釘付けになっていた。
そこにはこう書かれていた。
「ダイレクト出版の商品の
セールスレターを書いてもらい
出来の良いものから3つを採用。
実際に広告に出してABテストを行い
優勝者には報酬が出ます」
その頃、ノウハウコレクターとして
ブイブイいわせていた私は、いよいよ
今まで秘めてきた力を試す時がきた
とばかりに速攻で応募。
ところが、、、
そこは、それまで知識しか仕入れてこず
一枚もレターを書いたことのない私だ。
四苦八苦しながら、ようやく
セールスレターらしき物を仕上げると、
締め切りギリギリにメールで送信。
ひとつの大仕事をやり遂げた達成感と
満足感にしばし満たされていた。
え?結果はどうだたかって?
もちろん、トップで予選通過!
と言いたいところだが、
残念ながらそれほど
世の中は甘くはなかった。
当然である。
勉強ばかりして、一度もコピーを
書いたことのないやつが採用されれば、
真面目に書いている人が泣くというものだ。
ただし、重要なのはここからだ。
というのも、その時
応募作をひとつひとつ
寺本さんがレビューして
それをビデオで公開してくれたのだ。
そして、自慢ではないが、
そのレビューで
ボッコボコにされたのだ。
レビュー中に寺本さんの
「はぁーーー。。」
(なんだよこのコピー
by寺本さんの心の声)
というため息がイヤホンを
通して聞こえてくると、
恐ろしさと恥ずかしさで
耳をふさぎたくなったものである。
まあ、イヤホンつけてるから
耳ふさいでも意味ないけどねw
おっと、失礼。。
そんな拷問のような状況ではあったが、
寺本さんのレビューは非常に的確で
すごくわかりやすかった。
どこが悪いのか?
なぜ悪いのか?
どうすればいいのか?
とても丁寧に教えてくれたのだ。
「なるほど、そうすればいいのか!」
目から鱗が落ちるとは
こういうことかと思った。
そして、レビューをもとに
レターを修正して再提出。
セカンドチャンスを与えられたのだ。
結果はまたしてもダメだったが
私の心の中にはひとつの
信念が芽生えつつあった。
「レビューひとつで
こんなに変わるものなのか?」
それから、間もなくのことだ、
寺本さんからメールが直接届いたのは。
びっくりしてメールを開封すると
そこには、こう書かれてあった。
「最後まで悩んだんですよ。もう一歩でした!」
その言葉に喜ばないライターなど
この日本にいるだろうか?
その言葉に私の信念はさらに強化された。
「やはり、レビューの力は絶大だ」と、、、
寺本さんの師匠である小川さんが
レビューをする高額講座が始まるという
セールスレターが届いたのは、
それから半年後のことである。
わかるだろうか?
これが、ダイレクト出版の
洗脳プロセスであるw
今、思えば、あの寺本さんの
「もう一歩でした」という言葉も
どこまで本当だったかわからない、、、
え?後悔してるのかって??
とんでもない!
なぜなら、その講座が始まって4ヶ月後、
私はコピーライターとして
初めての仕事を獲得したからだ。
それから1年後には、
投資した150万円は
回収してしまったからだ。
そして今、フリーのコピーライターとして
それなりにやっていけているからだ。
すべては、レビューのおかげである。
昌子 幹