from 成澤将士
先日、出かけた帰りに地下鉄に乗っていた時の事。
車内の座席は全て埋まり、立っている人も半分くらい。
僕も吊革につかまってスマホを弄ってた。
すると次の駅で乗ってきた男性が、ふいに僕の隣に立っていた女性に声をかけた。
「〇〇さん、偶然ですね!」
どうやら仕事がらみの知り合いのようだ。
30歳手前といった感じの2人は、そこから世間話で盛り上がっていた。
ちなみに僕は電車ではイヤホンはしないタイプ。
外の音が聞こえないのがイヤなんだよね。ついつい集中して乗り過ごしちゃうから。
まあ、新幹線とかの長距離移動は別だけど。
それで2人の会話がちょいちょい耳に入ってきてたんだけど、お互い敬語で絶妙な距離感を持ちながらも、ちょっと良い感じの雰囲気を出してた。
もしかしたらこれがきっかけで交際や結婚とかになったら、それは素敵な偶然だなあなんて勝手に想像を膨らませてた。
そこから4駅、楽しそうに喋ってた2人だったんだけど、事態はここから急転直下する。
それは、男性が唐突に彼女に放った一言だった。
「あの、今度2人で旅行に行きませんか?」
「えっ、旅行ですか?」
「はい、2人で温泉にでも」
!?
うわっ、この男いきなりブッ込んだぞ!
驚いたのは僕だけではない。僕らの前の席に座っていた女性2人組も思わず「えっ・・」って顔で2人を見上げた。
全部が聞こえてたわけじゃないけど、全然旅行の話なんかしてなかったよね?
っていうかその距離感なら、誘うにしても、まずは食事とかじゃないの?
いきなり旅行はハードル高くない?
はっ、待てよ。
セールスの手法に、最初に無理目のお願いをしてわざと断らせて、その罪悪感で次の小さなお願いを通すという手法があるから、もしかしたらそのテクニックを使って、食事は断らせないという高等テクなのか?
だとしたらこの男、なかなかデキるぞ。
なんてことが僕の脳内で数秒のうちに駆け巡る。
僕は顔を上げて地下鉄の窓に映っている彼女の顔を伺った。
さっきまでの笑顔はない。
「ちょっと旅行は・・・」
彼女は取り繕ったような引きつった笑顔でやんわりと断った。
まあそりゃそうでしょ。
さあ、予定調和で断ったぞ。
この流れで食事に誘うんでしょ?僕はそう思っていた。
ところが男性から出たのは、
「旅行、、ダメですか・・・」
断られると思ってなかったのか、明らかに凹んでる。
えっ、それで終わり?これじゃただのアホやん。
僕はあっけに取られた。
座席で2人を見上げていた女性たちは目を見合わて小さく首を振った。片方の女性の口が動く。
声は聞こえないけど、僕には「ないわ~」と言っているのが分かった。
気まずい空気のまま次の駅に着き「じゃあ僕はここなんでこれで」と言い男性は降りた。
ちなみに男性は電車を降りた後、歩きもせず電車が発車するまで彼女を見送ろうとしている。
それに気付いているはずの彼女は、くるりと背を向け反対側の吊革に掴まった。
「私そんな軽い女じゃありません」きっと彼女の脳内ではこうした怒りが生まれていたことだろう。
彼の恋は終わった。きっともう最初に僕が想像したような素敵な恋愛物語は起きないだろう。
そう、彼は順番を誤った。
いきなりハードルを上げ過ぎた。
まだ信頼関係もあやふやな状態なのに、いきなり温泉旅行はないでしょ。
しかもあんな周りに会話がダダ洩れな環境で。
誰がどう見たって、断られる要素しかないじゃん。
ところが、自分の主義主張でいっぱいいっぱいになると、こうした事故がまま起きる。
そう、これはセールスレターも一緒。
まだ共感も生まれてないのに、
まだ信頼もされてないのに、
まだ売られる準備もできてないのに、
いきなりセールスをかけてしまう。
そうして生まれてしまった不信感や嫌悪感は、もうどうやっても払しょくできない。
結果、やたら説得調の売れないレターが出来上がる。
大事なのは、ちゃんと相手(ペルソナ)の事を想って、歩調を合わせて階段を登らせること。
対面だとそれができても、レターになるとそれができない人って結構多いと思う。
とっさでテンパって話すとやらかすこともあるけど、セールスレターならちゃんと構成を組めばそんな事故は起こらないはず。
「セールスレターはペルソナとのキャッチボール」
この意識を持って書いていくことが、やっぱり大事だよね。