from 成澤将士
「美味しい料理を作るのに、一番必要なものは何か知ってるか?」
今から20年位前、僕は全くの未経験で割烹に就職した。
それから約半年、仕込みや洗い物、調理アシスタントやまかない作りを経て、初めてお客様への料理を作る許可が出た。
冒頭の言葉は、ちょうどその頃に親方に問われた言葉。
「素材の良さと技術ですか?」
僕は恐る恐る聞いた。
すると、全く予期していなかった言葉が返ってきた。
「違う。美味しくなあれって気持ちで作ることだ」
そう、まさかの精神論だった。
僕は、「分かりました、ありがとうございます」と言ったものの、その答えには納得がいってなかった。
気持ちで料理が上手くなるなら苦労しないし。ってどこかで思ってたんだよね。
でも、今ならこの言葉が至言だったと分かるようになった。
「美味しく食べてほしい」って気持ちがあるから、細かく面倒な下処理も丁寧にやるし、お客様の好みに合わせて味付けを調整したり、盛り付けに気を配ったり、さらに腕を磨こうと思ったり、全方面的に意識が向上する。
そう、すべては「気持ち」が大事だった。
まだ若かった僕は、身につけた技術を使うことが面白かったり、周りを見る余裕もなくて「作る」ことが一番で、それを食べるお客様のことは見えてなかった。
きっと親方は、そんな僕のことを見抜いてアドバイスをくれたんだと思う。
そしてある意味、「美味しくなあれ」って気持ちで作るのは、ライティングも一緒だなあって最近思うんだよね。
知識や技術を身につけると、それを使いたくなるのは人として当たり前のこと。
でも、そういう状態の時って「このスワイプを使ってみたい」とか「これを書いてみたい」とか「スキルを見せつけたい」みたいな、そういう動機で書いちゃいがち。
そう、そこにはそのレターの向こう側にいるはずの「お客様」が存在しないんだよね。
僕らは、自分の書いたものを通じて、商品とお客様の橋渡しをする仕事。
そして橋を架ける時って、「両岸から架けていって、中心で合体させる」のが一般的。
つまり僕らの仕事の場合は、商品側とお客様側の両方から架ける必要があるってこと。
だから僕らは、ライティングをする前に、「この商品を届けたい」って情熱を持つ必要がある。
そして、どんな相手なら、「この商品で笑顔になるか?」も真剣に考えなくてはいけない。
商品を愛し、お客様も愛す。
その気持ちが、リサーチの精度を上げ、ライティングスキルを磨いていく根本になるんだよね。
だから逆に言うと、自分が「良いな」って思えない商品や、見込み客(ペルソナ)があいまいな状態では、どんなに頑張って書いても良いレターは絶対にできない。
だから、リサーチがすっごく重要なんだよね。
ちなみに嘘のような話だけど、この気持ちが根底にあると、スワイプファイル選びを間違えることがほぼなくなる。
なぜなら、スワイプファイル選びのコツは「商品と見込み客の状況」に合わせて適切に選ぶことだから、その視点がブレなくなることで判断しやすくなるから。
勉強やトレーニングを進めていくと、どうしても技術偏重になりがち。
もしあなたが「なんか上手く行かないなあ」って思うことがあったら、今日の「気持ち」の話を思い出してみてほしい。
きっと見えてくるものが変わると思うんだよね。
「情熱は人を動かす」って言うけど、あなたの「情熱」がこもったレターは、きっと読み手の心も動かすんじゃないかな。