From:昌子 幹
まだ会社員だった頃の話なんですが
その頃、僕は週末の午前中は
決まって近くのファミレスで
コピーの仕事や勉強をしていました。
というのも、そこのファミレスでは
朝定食があって、400円で
ドリンクバーまで付いてくるのです。
しかも、いつも空いているので
長時間居座っても
白い目で見られることがありません。
そして、そのファミレスで
僕が好んで注文していたのが
「豚汁定食」です。
さて、この「豚汁」という言葉。
あなたは何と読みますか?
これはどうも地域によるみたいで、
「とんじる」と読む地域と
「ぶたじる」と読む地域が
あるみたいなんですね。
僕の出身は島根県なのですが
おそらく、とんじる派です。
というか、それ以外の読み方があるとは
思ってもいませんでした。
一方、今、僕が住んでいるのは京都です。
関西圏でも基本的には
とんじる派が優勢らしいのですが
どうも滋賀方面に近づくと
ぶたじる派が増えてくるようなのです。
そして、このことが
今回お話しする事件を
引き起こしてしまったのです。
それは、ある週末の
清々しい朝の出来事でした。
いつものようにファミレスに着いた僕は
注文を取りに来た新顔らしき
女性店員さんに伝えました。
「”とんじる”定食をお願いします」
すると、彼女はまるで
宇宙人を発見したかのような目で
僕をちらっと見た後、
抑揚のない声でこう言い放ったのです。
「”ぶたじる定食”ですね。
かしこまりました」
一瞬、イラッとしました。
確かにこの辺りでは
そう言うのかもしれんけど
わざわざ言い直す必要ないやろ、と。
まあ、そんな些細なことで
言い争うほど僕の心は狭くないので
「はい」と答えておきました。
そして、いよいよ
豚汁定食が運ばれてきました。
持ってきたのはさっきの女性店員。
「お待たせしました。
”ぶたじる定食”です」
再びイラッとしました。
しかも、やけに”ぶたじる”を
強調しているのです。
「こいつ、確信犯やな」
だったら僕もここでおめおめと
引き下がるわけにはいきません。
「京都では”ぶたじる”と言うかもしれませんが
全国的には”とんじる”が一般的です。
例えそうではなかったとしても
言ってることは伝わるわけですから、
わざわざ言い直す必要はありませんよね?」
なんてことが言えるほど
僕の心は強くできていません。
その代わり、その次の週からも
僕は彼女に屈することなく
注文する時には必ず
「”とんじる定食”をお願いします」
と忍耐強く言い続けたのです。
(暇な店だったせいか
それ以来いつも週末の午前中は
その店員さんしかいませんでした)
ところが、敵もさるもので
「”とんじる定食”ですね」
とは意地でも言いません。
こうして、僕と彼女の攻防は
それから1年以上にわたって続きました。
「たまには違うメニューを食べたいな」
と思いつつも彼女をギャフン
じゃなくて「とんじる」と言わせるまでは
負けるわけにはいかなかったのです。
最終的には何だったか忘れたのですが
豚汁以外の件で遂に
忍耐強いはずの僕の堪忍袋の緒が切れて
そのファミレスには
二度といかなくなりました。
さて、、、
このどうでもいいエピソードが
コピーライティングと
一体何の関係があるのか?
あなたは不思議に思われるかもしれません。
でも、実は(多少)あるのです。
それは、コピーライティングにおいては
常に「相手の使う言葉を使う」ということ。
結構あるあるな話なんですが
どんな業界でもその業界に長くいると
専門用語を使ってしまいがちなんですね。
例えば、僕らにとったら
CVとかLTVって当たり前の言葉なんですが
一般的には言葉どころかその概念すら
知らない人の方が圧倒的に多いわけです。
ところが、その言葉をさも当然のように使っていると
相手は話についていけないどころか
僕のようにイラッとしてしまうわけです。
コピーライティングではよく
「小学生でもわかるように書け」
と言われますが、
そういう意味でも相手が普段使う言葉を使って
伝えるということはとても重要です。
もっと言うなら
自分にとっての当たり前のことは
相手にとっては決して当たり前ではないのです。
そのことを忘れずにいると
こちらからのメッセージを
相手に受け取ってもらえる可能性は
だいぶ高くなるはずです。
それでは、また。
昌子 幹
P.S.
ひょっとして、たった400円で毎週
昼まで居座っていた僕が悪いのでしょうか?